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2007年4月

2007年4月12日 (木)

混浴エピソード 東郷・谷水旅館 1

【2000年7月】

私の同僚の話ですが、面白かったので、パソコンにメモを残してたものを紹介します。今はなくなってしまった東郷温泉・谷水旅館でのエピソードです。

*****  *****  *****  *****

「ふう。気持ちいい・・・。でも俺はなんでこんなところで露天風呂に入ってるんだろ。」 男は溜息をついた。

今日も慌ただしい一日だった。丹後半島、城崎温泉、香住、湯村温泉と打ち合わせで廻り、本来なら深夜に自宅に帰る予定だった。すべては、夕方、一緒にツアーの企画をしている同僚の電話から始まった。

「例の連泊プラン、さっき東郷の谷水旅館はどうかなと話が入った。ハードは古いと思うけど、今度の企画に使えるレベルかどうか足を伸ばして見て来てくれない?急で悪いんだが。」
「おいおい、今日中に帰れないじゃないか。俺、明日は久しぶりの代休だぞ。」
「週明けのプレゼン、今の候補だとイマイチだろ?代替案を実際見てるのとそうでないのでは説得力が違うんだよな・・・。頼むよ。」
「しかたないな。今から東郷だと到着は夜9時頃になるぞ。」
「大丈夫。実は既に予約してある。食事も企画で使う予定のものと、代替メニューを数品用意させている。交渉経過はメールするから、味見して結論出してくれ。」
「・・・おまえ、俺が断るって事は考えてなかったのか?」
「長年のつきあいで、仕事の禍根を残して休むような人じゃないと信じてたよ。じゃあよろしく。」

仕事柄、旅館で風呂に入るのはいつも深夜になる。食事を兼ねた打ち合わせが終わったのは夜11時15分。ここは、夜12時に庭園露天風呂が閉まるので、まずはそこに向う。
回廊型の旅館なので建物に囲まれた真ん中に庭園があり、その中にあるひょうたん型の湯船には、大きな番傘が湯船の中に3つもあるのが特徴。建物のどこから来ても便利なように周囲に3カ所の脱衣場がある。平日は宿泊客も少ない。まして深夜ともなると、大概は大きな湯船を独占できる。彼にとっては、仕事で回る温泉地で広い湯船にひとりで浸かる事が、ストレス解消法のひとつだった。

ひょうたん型の湯船の右側に入る。ここは源泉約90℃の高温泉である。成分は含石膏食塩泉だが、無味無臭。濃度は低いに違いない。あるいは、冷ますために相当加水しているのかもしれない。
「湯としてさほどの特徴はないな。ただ、床はつるつる滑るので注意が必要かな。・・・混浴だが、円形ではないので死角も多いし、女性には湯浴み用の袖なし浴衣を貸してくれるので抵抗感は少ないだろう・・・。」 仕事柄いろいろとチェックする。
ひととおりチェックし終わると湯船の縁石に頭を預けてのんびり浸かる。見上げれば満月に満天の星空。さそり座のアンタレスが赤く輝いている。疲れが湯の中に溶け出していくようだ。
「このまま時間が止まってくれたらなあ。」

人の気配に、男は、星を見上げていた視線を落とした。
脱衣場のひとつで、女性が浴衣を脱いでいた。後ろ向きで、背中を半分隠すほどの長い髪を慣れた手つきで括り上げ、湯船に足をつける。20歳代後半くらいだろうか。スレンダー系の美形である。さすがに湯浴み用の浴衣を着ているが、それにしてもこんな深夜に、若い女性が男性ひとりの湯船に入ってくるとは・・・。
しかも、大きなひょうたん型の湯船なので、当然左側の湯船に向かうのかと思っていたら、わざわざこちらの湯船に入ってきた。

「こんばんは。」 関西訛りのようだ。
「こんばんは。・・・おひとりですか。」
「連れが大きな風呂、あまり好きでないんです。私は露天風呂が大好きなんで・・・。」
「私も大の温泉好きなもんで、今、まったりとしてたんです。」
「お邪魔だったですか?」
正直、半分はお邪魔である。疲れている彼にとっては貴重なまったりタイムに違いない。しかし、40歳になったばかりの男は、若い女性と一緒に露天風呂で過ごす機会を拒否するほど枯れてもいなかった。
「そんなことはないですよ。」

*** 次回に続く ***

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